3 相続・遺言・後見

相続

 母が80歳で亡くなりました。相続人は私と兄の2人だけです。 兄夫婦は、もともとは両親と同居していたのですが、父が亡くなった後、母とは不仲だったため、最後の5年間、母は老人ホームで生活し、兄たちは、母の介護はほとんどしていません。私の方が頻繁に母の老人ホームに面会に行き、励ましてきたのです。 兄は、自分が母の面倒をみたのだから土地建物は自分がもらう、私には300万円を渡すと言って、司法書士に作ってもらったという書類に実印を押すよう求めてきました。 母名義の土地は、少なくとも2000万円以上の価値があると思いますし、母は贅沢をせず、父の遺族年金もあまり使わず貯蓄していた人だったので、貯金も相当あると思います。 私が300万円だけというのは納得できず、「全体の遺産はどのくらいあるの」と兄に訊いたものの、兄は答えてくれません。
 相続は、亡くなった方(被相続人)が遺したすべて全財産を民法で定められた法定相続人がひきつぐことです。しかし、共同相続人の一部が遺産を隠したり、分け方についての相続人同士の意見がまとまらなかったりして、トラブルになることがよくあります。 相続手続をするには、①戸籍をさかのぼって相続人を確定し、②相続財産を調査し、③分け方について話し合いを行い、④遺産分割協議書を作成し、⑤預金の払い戻し、不動産の所有権移転登記など、遺産分割協議書の内容に沿って分けるという各手続が必要です。 あなたの場合、お兄様から遺産の内容さえも教えてもらえないのであれば、話し合いが円滑に進みそうにありませんね。 そのような場合、遺言の有無を確認した後、相続財産の調査を開始した方がよいでしょう。亡くなったお母様の財産は相続人の一人であるあなたにも権利がありますので、金融機関に依頼すれば取引履歴を開示してもらうことができます。 弁護士に相談していただき、不動産の調査、金融機関の調査などをして、亡くなる直前に多額の預金を払い戻ししていないかなど、財産調査をする価値はあると思います。 土地建物が一つしかなく、お兄様が土地建物を単独で相続する場合には、あなたが相続分に見合った代償金を払ってもらうという分け方も考えられます。 実印を押したり印鑑証明書を渡したりする前に、きちんと内容を確認し、疑問があったら、弁護士に相談されるのがよいと思います。

遺言

 そろそろ70歳に手が届く年齢になったので、遺言を作っておきたいと思います。今、私が持っている土地建物や預貯金は、2度目の結婚をした亡夫が遺してくれた財産ですが、私には、2人の子どもがいて、1人(A)は40年前に離婚した前夫との間の子ども、もう1人が2度目の夫との間にできた子ども(B)です。 Bには障害があり、仕事はしていますが収入が低いので、Bの父である亡夫が遺してくれた自宅の土地建物や預金をできるだけ多くこの子に引き継ぎたいのです。 私が亡くなった後でもめないよう、あらかじめ遺言を書くなどしてできる限りのことをしておきたいのです。
 亡くなった後の財産の分け方について、はっきりとした希望がある場合、有効な遺言を是非とも作成しておいてください。 公正証書で遺言をしておくと、オンラインで全国の公証役場で遺言が検索できるので、紛失したり隠匿されたりする心配がありませんし、専門家が関与して作成するため、内容が不明確などと指摘されることはまずなく、遺言通りに遺産が引き継がれる可能性が高いからです。 あなたの場合、全財産をBさんに相続させるという公正証書遺言を作成しておくことをお勧めします。ただし、この場合、前婚のお子さん(Aさん)が遺留分の主張をすることが考えられます。Aさんが遺留分を主張した場合は、法定相続分の2分の1、すなわち全財産の4分の1をAさんが取得することになります。 Aさんの遺留分を無くすためには、Aさん自身に、遺留分放棄の許可の申立書を家庭裁判所にしていただくという方法がありますが、これにはAさんに協力してもらう必要があります。あなたの意思をAさんによく説明し、Aさんに多少預貯金を生前贈与するなどして、遺留分を放棄してもらえないか、頼んでみるのがいいでしょう。 なお、お子さんがいらっしゃらないご夫婦の場合、法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1と定められていますが、この場合、兄弟姉妹には遺留分はありません。「全財産を妻(夫)に相続させる」という遺言があれば、兄弟姉妹には相続させなくてもよいのですが、遺言がないと、兄弟姉妹に遺産を分けるために、長年住み慣れたお宅を配偶者が退去しなければならなくなるなどというお気の毒な例も見られます。 遺言はきちんとした形で残しておくことをお勧めします。どのような内容の遺言を作成すればよいか、一緒に考える段階から弁護士にご相談ください。

任意後見

 遺言は2年前に作ったのですが、亡くなる前に自分が認知症にならないか心配です。今はまだ問題ないのですが、もしも私が認知症になったら、在宅介護は大変なので老人ホームに入れてもらい、延命治療などはできるだけしないで寿命がきたら安らかに死にたいと思っています。そのような私の希望を尊重してもらうには、どうしたらいいですか。
 遺言は、亡くなった時点で残った財産の処分・分け方を指定するものですが、亡くなる前に、認知症で詐欺の被害に遭って大きな財産を失ったりしたら、いくらきちんとした遺言があっても、あなたの希望は実現できません。また、亡くなる前の住まいや介護方法、延命治療をどの程度するかについても、遺言とは別に意思表示しておく必要があります。 将来、判断能力が衰えてきた場合に備えて、あらかじめ、後見人を選んでおき、判断能力が衰えた自分に代わって、自分が希望していたとおりの生活を実現するよう依頼しておくのが任意後見制度です。 弁護士と任意後見契約を結び、将来、判断能力が衰えてきたときにどういうことをしてほしいか詳しくご希望をお聞かせください。 そのご希望に沿った任意後見契約を作成し、弁護士がご希望の実現に向けてお手伝いします。

法定後見

 実家の母を2か月前に訪問したところ、屋根のリフォームが必要になったと言って、屋根のリフォーム工事を600万円で契約していました。そんなに多額の工事が必要なのか疑問でしたが、築20年経っているのでプロに見てもらうのは悪くないかも、と黙っていましたが、昨日は、下水管の補修工事だと言って、200万円の工事代金の請求書がありました。下水が壊れたの?と母に問いただしても、はっきりした答えが返ってきません。 母は、まだ元気でしっかりしているとばかり思っていましたが、高齢者を狙った詐欺被害に遭っているのではないでしょうか。母は、まだ一人で大丈夫、と言いますが、これ以上被害に遭わないためには、どうしたらいいでしょうか。
 判断能力が不十分になった人の財産を守り、入院や施設入所などの契約を援助するのが法定後見などの制度です。 後見人は、判断能力がなくなった人(被後見人)がおこなった不利な契約を取り消したり、契約を代理したりして、ご本人の権利を守ります。お母様が請求されている工事代金が正当なのかチェックして、未払いの場合は減額の交渉をしたり、支払い済みの場合は、返金の交渉をすることが考えられます。 後見開始を申し立てることができるのは、配偶者、四親等以内の親族または市区町村長です。手続や費用など詳しいことは、個別にご相談ください。
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