11 行政訴訟・国賠訴訟

行政訴訟とは

 私たちの事務所では、行政訴訟、国家賠償訴訟など、行政を市民の立場から正すような事件をたくさん担当してきました。違法・不当な行政を正すことは司法の大きな役割だと考えてきたからです。 具体的には、以下のような訴訟です。

  • 原発の設置許可を取り消す
  • 刑務所での看守による虐待によって負傷したり死亡した受刑者のために損害賠償を請求する。
  • 無用・有害なダム・導水路に反対する。
  • 高速道路計画について、ルートの変更を求める。
  • 鉄道線の立体交差のための高架線工事に反対する。
このような事件の多くは、勝訴することが難しいのですが、私たちの事務所では、多くの刑務所人権侵害で勝訴をおさめ、原発訴訟でも3件の原告勝訴判決に関わっています。

行政訴訟の一例(保育園の民営化を争う)

一例として、海渡、秦、猿田で担当した、保育園の民営化を裁判で争った事例を紹介します。 この事件は、横浜市(中田市長)が2003年夏に民営化の方針を提起したことに始まります。父母の一致した反対にもかかわらず、12月には4つの公立保育園を民営化する条例案が横浜市議会で可決され、わずか3ヶ月の引継ぎ計画、実質は1ヶ月の共同保育で廃止されてしまったのです。事故が続出する中で、それまで裁判には縁が無かった「普通の市民のお父さんお母さん」がこの裁判を提起しました。 この裁判を起こした当時、保育園の民営化をどうやって法律的に争えばよいかは、法的に明らかになっていませんでした。私たちは、保育園の廃止を決めた市の条例を行政処分と捉えて、その取消を求める裁判を提起することにしました。それぞれが仕事を持ち、子育てを行いながらさらに裁判を起こすことは大きな負担でした。なぜ原告らはそこまでして、裁判で争おうとしたのでしょうか。それは、ひたすら自らの児童が「心身ともに健やかに生まれ、育成される」(児童福祉法1条、2条)ことを確保するためやむにやまれない状況に追い込まれたからでした。 「保育所の民営化」は、国営企業たとえば専売公社や国鉄の民営化とは全く違います。土地と建物は維持されていても、肝心な保育士がすべて交替してしまうのです。乳幼児は、衣食住を与えられただけでは育ちません。人間との関係・愛着関係を形成して初めて心身の健全な成長が可能となるのです。保育で重要なのは「箱」ではなく、「人」なのです。 横浜地裁の原告完全勝訴判決 2006年5月22日横浜地裁民事第1部は、市立園廃止処分(保育所民営化)を「違法である」と判決主文で言い渡し、原告らに対して損害賠償も認められました。 判決は、「入所児童がいる保育所を民営化するについては、当該保育所で保育の実施を受けている児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益を尊重する必要があり、その同意が得られない場合にはそのような利益侵害を正当化しうるだけの合理的理由とこれを補うべき代替的な措置が講じられることが必要である」との基準を示しました。 この判決は公立保育所の民営化は 保護者の理解と納得なしに、また十分な引き継ぎなしに進めることは違法であるというものでした。 東京高裁まさかの逆転門前払い判決 ところが、2009年1月29日東京高裁は、廃止処分の行政処分性自体を否定し、父母の訴えを却下し、訴訟自体を門前払いする問答無用の判決でした。全国で争われている保育所の民営化に関する訴訟の多くが、この形式の抗告訴訟として争われ、適法な訴えとして実体判断が示されていたのに、このような訴訟形式そのものを全否定するものでした。 原告の訴えの資格を認めた最高裁 最高裁2009年11月26日判決は、この高裁判決を覆し、改正条例の制定行為が行政処分に当たるとして、このような紛争を行政訴訟で争うことができることを明確にしました。 判決は、児童福祉法24条1項~3項に定められた仕組みは、女性の社会進出や就労形態の多様化に伴って、保護者の選択を制度上保障したものであり、特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者は、保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有するとしました。そして、改正条例は、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであり、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るというものでした。 この時点では、すでに全児童が卒園してしまっていたため、中味の結論は言い渡されませんでしたが、この判決は同種の訴訟で民営化の措置を争う法的な手段を父母に保障した画期的なものだったといえます。 庶民のやむにやまれぬ思いが報われることもある 判決後の記者会見では、原告代表の金道敏樹さんが、同種訴訟が2審のように門前払いされる恐れがなくなり、「(同じ問題に悩む)全国のお父さんお母さんに良いプレゼントができた」と笑顔で報告しました。 この事件の当初は深夜まで父母の皆さんと書類作りのため打ち合わせをしました。この最高裁判決を引き出したことで、今後の保育所民営化政策には大きな歯止めを掛けることができました。 行政事件は困難な事件ではありますが、庶民のやむにやまれぬ思いが司法によって報われることもあるのです。あなたも行政の理不尽に納得ができないときには、私たちのドアを叩いてみて下さい。一緒に考えていきましょう。 <参考文献>秦雅子「保護者・児童の法的地位を認めるクリアな判決」(『賃金と社会保障』1510号69頁)
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