書籍・メディア

2017年11月10日

海渡雄一弁護士が『共謀罪は廃止できる』を出版しました。

新刊 「共謀罪は廃止できる」を刊行しました。 

出版社 緑風出版

出版年月日 2017年10月25日

定価 1200円+税

紹介

2017年6月15日、市民の強い反対を無視して共謀罪法が成立しました。そして全国で気がかりな動きが表面化しています。共謀罪に反対した市民団体が警察から「どうして反対した」などと問い合わせを受けたり、共謀罪制定による萎縮効果が仕掛けられています。いま必要なのは、デジタル監視社会の下でプライバシーを守る闘いの重要性を共有し、萎縮しないで市民活動をやりきることを誓い合うことです。 本書は、共謀罪法のすべてをわかりやすく解説し、問題点を明らかにして、その廃止に向けた運動のためのテキストとして書き下ろされた書です。(2017.10)

 

内容構成 はじめに 共謀罪のある社会に生きるということ 1 共謀罪とは何か、私たちはなぜ反対したのか 一 私たちの反対の声、国際社会からの声を無視して強行された共謀罪の成立 二 私はこの長い道を全ての日本市民とともに進んで歩んでいくつもりです(カナタチ) 三 共謀罪法案とは何か、私たちはなぜ反対したのか Q1 国会で成立した共謀罪法とはどんな法律ですか Q2 共謀が処罰されることにどんな意味があるか Q3 どのような行為が刑罰の対象かわからなくなる? Q4 犯罪捜査のやり方が変わる? Q5 どんな市民活動が共謀罪の取り締まり対象となるの? Q6 共謀罪の立法化はなぜ提案されたのか? Q7 国連越境組織犯罪防止条約とはどのような条約ですか? Q8 共謀罪ができたことで、市民活動にどのような監視がされることになるのか? Q9 二七七の対象犯罪のうち、市民団体の活動に特に影響を与えるものはなにか。 Q10 共謀罪が市民団体に適用されると、どのようなシナリオが起こりうるのか?

2 今、私たちはどのように監視されているのか 一 陸自情報保全隊事件 二 ムスリム違法捜査事件 三 大垣署事件 四 大分選挙事務所監視事件 五 前川文部科学前次官に関するスキャンダル報道 六 官邸記者会見で官房長官を質問攻めにした望月衣塑子記者が監視対象に

3共謀罪は廃止しなければならない はじめに 一 反対運動の到達点と反省すべき点 1 私たちは、非常に大きな反対の市民の声を作り上げることに成功した 2 私たちの反対運動の反省すべき点 二 共謀罪法はなぜ廃止しなければならないか 1 審議手続きの国会法五六条の三違反 2 法の定める構成要件が、「刑罰法規の明確性の原則」に反している 3 法案の修正によって濫用の危険性が除かれていない 4 二〇一七年法案はかえって二〇〇六/七年段階より後退していた 5 別の選択肢があり得た 6 共謀罪の捜査によるプライバシー侵害の危険性が著しく高まる 三 国際的にも国内的にも立法の必要性がなかった 1 TOC条約の目的はテロ対策ではない 2 TOC条約五条が求めていた措置 3 日本における組織犯罪対策は世界水準 4 法はTOC条約が求めていた範囲をはるかに超えていた 四 条約は、どのような制度の立法化を求めていたのか 五 秘密保護法は米国の指示によって作られた 六 高まる市民運動・労働運動への弾圧の危険性と公安警察の権限の濫用 1 沖縄における基地反対運動への弾圧と共謀罪 2 政府答弁においても、人権・環境団体への適用を肯定している 3 警察情報機関に対する監督など、国連特別報告者の指摘に答えるべきである 七 共謀罪の廃止を求める運動の今後の課題 1 法の廃止を政治における現実的なテーマにしていく 2 共謀罪を通信傍受の対象とすることを阻止する 3 プライバシー保護の法制度・情報機関に対する監督機関の設立を求めていく 4 共謀罪事件についての弁護に組織的に取り組む

4 深いベールに包まれる監視捜査 一 GPS監視最高裁判決の意味 二 司法取引と自首減免制度 1 密告を奨励する自首減免制度 2 司法取引の導入 三 証人保護規定の強化がもたらすスパイ(覆面捜査官)潜入捜査 四 通信傍受法とその拡大 1 一九九九年通信傍受法の概要 2 法制定後の通信傍受の運用状況 3 通信傍受法の改正(二〇一六年) 五 会話傍受の導入計画 六 規制なしに蔓延する顔認証・監視カメラなどの監視捜査 七 プライバシー保護のための制度「通信監視への人権適用に関する国際原則」 八 カナタチ氏が求めるプライバシー保護のための制度が備えるべき最低条件

5 スノーデンが描き出した世界監視システムと日本 一 プリズム 二 海底ケーブルを流れる情報をコピーしてしまうSSOの恐るべき内容 三 監視する者も監視される 四 日本政府に提供されていたXKeyscore 五 カナタチ国連特別報告者はアメリカ政府に大量監視システムの停止を要請 六 プライバシーは人が人であるための前提である

6市民は共謀罪と市民監視にどのように向き合うべきか 一 ドイツに学ぶプライバシー保護と捜査機関に対する監督 1 ドイツ連邦憲法裁判所二〇〇八年二月二十七日判決 2 データコミッショナー制度 3 日本で、どのような制度を目指すべきか 二 今後どのように共謀罪が実際に適用できないよう形骸化することができるか

資料1改正組織犯罪処罰法六条の二 資料2「共謀罪」の対象となる二七七の罪

あとがき もう隷従はしないと決意せよ 参考文献

 

著者から一言(本書はじめにより)

 

共謀罪のある社会に生きるということ

二〇一七年六月十五日早朝に共謀罪法は徹夜の参議院本会議の末に成立しました。そして、七月十一日には法が施行され、政府は国連越境組織犯罪防止条約(TOC条約)を世界で一八八番目に批准しました。

二〇〇三年の政府提案から一四年余に及んだ私たちの反対運動は成功しませんでした。しかし、この共謀罪反対運動の最大の成果は、日本の市民が深まるデジタル監視の下でプライバシーを守る闘いの重要性を共有することができたことです。これから、私たちは、共謀罪法を廃止するための長く時間のかかる運動を始めようとしているわけですが、実は共謀罪の廃止はゴールの一つに過ぎません。国連の特別報告者であるカナタチ氏が述べたように、監視社会の中で、人が自立して活動を続けるために、プライバシーを保護する法制度を作っていかなければなりません。私たちの前にはこのような大きな仕事が残されていることが明瞭になりました。

本書はこのような願いを実現するための第一歩として書かれました。ですから、プライバシーの危機を示す内外の事例を掘り下げ、その保護のための国連や国際社会での努力、さらにはドイツの参考とすべき考え方なども紹介しました。全国で、気がかりな動きが表面化しています。共謀罪に反対した小さな市民団体が、警察から「どうして反対した」との問い合わせを受けたという情報があります。地方自治体から助成を受けていた団体が共謀罪に反対したことで、助成を打ち切られそうになっているという情報もあります。事件の捜査よりはるか以前の位相で、共謀罪の制定による萎縮効果は既に仕掛けられているのです。

ここで、まず私たちはやらなければならない最初のことは、萎縮しないで市民活動をやりきることを誓い合うことではないでしょうか。みんなが萎縮を始めると突出している部分が目立って狙われることになるからです。共謀罪に関して言えば、おそらく最初は、暴力団や詐欺集団、人身売買、児童ポルノなどのケースが狙われ、「共謀罪は女性や子どもたちの安全に役に立った」というキャンペーンが張られると見た方が良いでしょう。確かに、共謀罪をこのような組織犯罪の対策で使うことは可能です。しかし、そうした事件の多くが、現実に組織犯罪集団によって繰り返されている既遂犯罪であり、新たに「共謀罪」を制定しなければ、摘発できない犯罪であったかどうかは慎重に検証しなければ、この法律の必要性を論証したことにはなりません。そして、法を適用された者が真の「組織犯罪集団」であっても、その適用の過程を厳しく監視し、悪法の適用にはそれが誰を対象にしたものであるとしても、反対していくのだというスタンスを、私たち市民はあらかじめ決めておく必要があると思います。

私たちは共謀罪なんかに負けないぞ!

表現の自由と民主主義を取り戻そう!

ページトップへ戻る