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2018年8月15日

長澤運輸事件最高裁判決について

 長澤運輸事件最高裁判決について

                       弁護士   花垣 存彦

 

 長澤運輸(横浜市の運送会社)で働くトラックドライバーの定年後再雇用の有期契約労働者3人が、労働契約法20条に基づき、正社員との賃金格差が不合理であると訴えた訴訟について、去る6月1日、最高裁判所で判決が言い渡されました。当事務所の3名の弁護士が担当した事件です。

 結論としては、精勤手当(全営業日に出勤した場合に支給される手当)及び精勤手当に連動する超勤手当(残業代)について、正社員と定年後再雇用者との格差は不合理と判断され、その他の基本給や手当については、その格差は不合理ではないとして請求が退けられました。

 本件において、定年後再雇用者が、職務の内容や変更の範囲が正社員と全く同一であるにもかかわらず、定年後再雇用であるとの事情(雇用期間が短いこと、年金が支給される可能性、退職金が支払われていることなど)を非常に重視し、結果として格差を容認した点については、不当な判決であるといわざるを得ません。

 しかし、同日に言い渡されたハマキョウレックス事件と併せ、平成26年に施行された労働契約法20条について、次の点において、最高裁判所の判断基準が示された意義は非常に大きいものです。

・「期間の定めがあることにより」の解釈

 同条の「期間の定めがあることにより」とは、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう」とされ、この点について、広く解釈されることが示されました。この点は、長澤運輸事件の第一審判決で示された解釈がその後の20条裁判の判決でも踏襲されてきたものを最高裁判所が確認したものといえます。会社側は、定年後再雇用だから賃金を引き下げたのであって、20条は適用されないという主張をしていましたが、このような主張ははっきりと退けられました。

・「不合理と認められるもの」の解釈

 同条の「不合理と認められるもの」とは、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう」とされ、不合理を非常に限定的に解釈すべきという会社側の主張を退けました。

・賃金項目ごとの判断

 「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきもの」であるとされ、この点は定年後再雇用について同様であると判断されています。

 長澤運輸のケースでは、基本給や賞与の格差については、引下げの割合や他の手当による補完がある点や引き下げが20%強であることなどが不合理性判断において考慮され、格差が容認されましたが、企業毎に事情は違います。定年後再雇用者に手当を不支給とする場合には手当ごとの趣旨を踏まえて不合理でないことの説明が求められることから、定年後再雇用者に対する差別的賃金体系の見直しを迫られる会社も少なくないと考えられます。

 この最高裁判決を機に、有期雇用労働者や定年後再雇用者の労働条件の向上が図られることを心から願っています。

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