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2020年3月19日

解雇の有効性と解雇期間中の賃金(弁護士村上)

 解雇の有効性と解雇期間中の賃金について村上一也弁護士が執筆した法律コラムが東京ユニオン機関紙GU12月号に掲載されました。以下,同原稿をウェブ用に編集したものです。

【質問】

私は、現在勤めている会社が行っている業務の一部について、コンプライアンス上問題があると感じてきました。そこで、問題があると思われる業務に関し指示があるたび、私はその問題点を上司に指摘してきました。そうしたところ会社から突如、私が業務の妨げをしているという理由で解雇通知が送付されてきました。

私としては、誰よりも真面目に業務を行っているつもりでいたのに、突然このような通知が来て困惑しています。正社員として定年まで勤め上げるつもりだったのに、私は明日から職を失ってしまうのでしょうか。貯蓄もなく、すぐに次の仕事に就かなければ食べていけないため、争うこともできないのではないかと不安です。

【回答】

目次

1.解雇権濫用法理
2.解雇期間中の賃金
3.紛争係属中に他の会社で働いた場合
4.能率の低下等に基づく解雇

解雇権濫用法理

 解雇は、労働者の生活に大きな打撃を与えるものであり、「会社の業務内容に疑問を呈した」からといって解雇ができるものではありません。あなたの指摘が正しいのであれば,解雇理由にすること自体不当です。

 解雇理由は、あなたが「業務の妨げをしている」というもののようですが、仮に業務の妨げになったことがあるとしてもそのことから直ちに解雇することが認められるものではありません。

 この点について労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」旨明記しています。

 したがって会社が行ったあなたへの解雇についても、あなたがその有効性を争った場合には、①客観的に合理的な理由があったことを会社が主張立証し、かつ②解雇することが社会通念上相当であることについても会社が十分な主張立証をしない限りは無効となります。

解雇期間中の賃金

 解雇が解雇権濫用として無効とされた場合には,解雇後も労働契約は継続していたことになりますので,労働者側に客観的に見て就労の意思や能力がないなどの事情がない限り,解雇期間中の賃金を請求することができます。

紛争係属中に他の会社で働いた場合

 解雇された期間中に生活のため,他の職に就いたとしても、解雇無効を主張して争うことはできますので、その点はご安心下さい。もっとも、解雇が無効であることが裁判によって明らかになり、会社があなたに対する過去の賃金を支払うよう命じるにあたって、解雇期間中の別収入が考慮され,賃金が減額される場合があります。

 この点について最高裁は、解雇された労働者が解雇期間中に他の職について収入を得たときは、①その収入が副業的なもの(解雇がなくても取得していたもの)といえる特段の事情がある場合には、当該収入を理由に会社が支払金額を減額することはできず、②副業的なものでない場合には、同一期間中の賃金について考慮する必要があるものの、会社が控除できるのは平均賃金の4割が限度であり、平均賃金の6割部分は会社が依然として支払義務を負うと判示しています。

 このように、他の収入を得つつも同期間中の会社への賃金請求権の6割が保障されているのは、労働基準法26条が定める休業手当(使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない)の趣旨によるものとされています。

能率の低下等に基づく解雇

 既に述べたとおり、解雇は労働者の生活に大きな打撃を与えるものですから、安易に「能率の低下」を理由に解雇が認められるようになってしまうと、労働者は極めて不安定な地位に置かれることになってしまいます。

 したがって、解雇の有効性判断(①客観的合理性及び②社会的相当性の有無の判断)にあたっては、当該労働者の行動によりどの程度業務に支障が出ているのかや、当該労働者にどの程度改善の機会が与えられたかについて、会社から主張立証することが求められていると言えます。

 ご相談の内容からは、あなたが上司に対して指摘をした問題の内容や、頻度がどの程度かはわかりませんが、少なくとも会社はあなたに対して、当該行為が業務の妨げになっていることを事前に指摘して、改めるよう求めることをしていないのですから、仮にあなたの行為が業務の妨げになった事実があったとしても、労働契約の継続を困難とするほどの能率の低下や、改善の見込みがなかったとは言えませんので、あなたに対する突然の解雇は,無効となる可能性は高いと言えます。

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