書籍・メディア

2024年11月6日

海渡弁護士による『虎に翼』解説~ 2024.9.23 尊属殺人重罰規定の違憲性~最高裁弁論

【2024.9.23 尊属殺人重罰規定の違憲性~最高裁弁論】

よねさんの最高裁大法廷での弁論、みごとでしたね。

尊属殺人重罰規定の違憲性が争点とされる事件の大法廷弁論が1972年(昭和47年)5月開かれました。

やはり今日のよねさんの弁論を紹介します。

「論点は、誰の目から見ても分かりきっていますので、回りくどい前置きはしません。刑法第200条、尊属殺の重罰規定は、明らかな憲法違反です。昭和25年に言い渡された、刑法第200条の最高裁合憲判決。その基本的な理由となるのは、人類普遍の道徳原理。はて?」

ここで桂場長官がよねさんに厳しい視線を送ります。

つづけて、よねさんは、「本件において、道徳の原理を踏みにじったのは誰か。尊属である父を殺した被告人ですか。それとも、家族に日常的に暴力を振るい、妻に逃げられ、娘を強姦し続け、子を産ませ、結婚を阻止するために娘を監禁した、被害者である父親ですか。暴力行為だけでも許しがたいのに、背徳行為を重ね、畜生道に堕ちた父親でも、彼を尊属として保護し、子どもである被告人は、服従と従順な女体であることを要求されるのでしょうか?それが人類普遍の道徳原理ならば、この社会と我々も、畜生道に堕ちたと言わざるを得ない。いや畜生以下、クソだ!」

桂場長官は、よねに「弁護人は、言動に気をつけるように」とくぎを刺します。

ここで相棒の轟が立ち上がり、「不適切な発言でした。お詫びいたします。」と桂場長官に詫びます。

しかし、よねさんに向かって、小声で「行け、山田」と、頑張れと励まします。このあたり、手に汗を握る展開でした。

よねは、「憲法第14条は、すべての国民が法の下に平等であるとし、第13条には、すべての国民は個人として尊重されるとある。本件は、愛する人と出会った被告人が、すべての権利を取り戻そうとした際、父親から監禁と暴力による妨害を受けた結果であります。当然、正当防衛、もしくは過剰防衛に該当する。もし、今もなお、尊属殺の重罰規定が、憲法第14条に違反しないものとするならば、無力な憲法、無力な司法、無力なこの社会を、嘆かざるを得ない。著しく正義に反した原判決は、破棄されるべきです。以上です」

本当に堂々として、大切な事実と法理とさらには情理を最高裁判事に伝えたすばらしい弁論でしたね。

どんな判決になったかは、やはり、ネタバレですよね。裁判官の意見が複雑に分かれる判決となりました。

最高裁の法廷で弁論するということは、弁護士にとってはやはり最高の名誉です。基本的に、最高裁の弁論は高裁の判決が変更されるときに開かれます。この事件では、高裁は合憲の判断をしていたわけで、それが変更されることは、口頭弁論を開くと通知されたときにわかります。

わたしも、幾度か最高裁の法廷に立ったことがあります。そして、高裁判決を見直してもらったことも2度あります。刑務所の子ども面会を禁じていた監獄法施行規則の見直しの判決、保育園の民営化・公立保育園の廃止について、父母に行政訴訟を提起することができるか問われた裁判で、原告適格を認める判決をもらった時です。

逆に、高裁で勝っていたもんじゅ訴訟の判決を最高裁で逆転されたこともあります。死刑事件はすべての事件で弁論を開くのですが、原判決のとおり、死刑を維持する上告棄却の判決言渡を受けたこともあります。

今日のドラマを見て、自分が法廷に立った時のことなど思い出しました。ドラマもあと4回となりました。終わったら寂しくなりますね。

ページトップへ戻る