【2024.9.17 ブルーパージ②】
今日の「虎に翼」、ついに寅子さんと桂場さんが決裂しました。
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航一さんの息子であり、最高裁の中枢で働いていた星朋一裁判官(井上祐貴)に、最高裁事務総局から家裁への異動が発令されました。朋一さんのことば、「勉強会に参加していた仲間も何人も、支部に異動になって。左遷としか言えない内示が出ていて」「こんなあからさまなこと、許されていいのかな」。
桂場長官の判断に違いないと考えた寅子さんは最高裁の長官室に桂場さん(松山ケンイチ)を訪ねます。二回目のノックで、「入れ」と室内に入ります。そして、寅子は、この異例な人事の理由を桂場さんに直接、問いただします。
桂場「俺がすべて指示した」「それくらい分かるだろう」「裁判官は孤高の存在でなければならず、団結も連帯も、政治家たちが裁判の公正さに難癖をつけるための格好の餌食になる。今、君が奮闘する少年法改正の、邪魔にもなっただろう」
寅子「純度の低い正論は響きません」「政治家の顔色を見て、未来ある若者を見せしめにして、石を穿つ雨垂れにもせず、切り捨てたということですよね。汚い足で踏み入られないために、桂田さんは長官として巌となったんじゃないんですか。あの日話した穂高イズムは、どこに行ったんですか」
桂場「そんなものを掲げていては、この場所にはいられん」
寅子「桂場さん、もう一度、何を守り、何を切り捨てるべきか、私や頼安さんと話してみませんか」
桂場「思い上がるな、立場をわきまえろ!」「出ていけ。以後、二度と用もないのに訪ねてくるな」
寅子「分かりました。お忙しい中、お時間つくっていただき、感謝いたします。どうぞ、お元気で」
「どうぞ、お元気で」が泣かせますね。
“イマジナリー”多岐川幸四郎(滝藤賢一)が現れます。
「で、どうすんだ、おまえは。裁判所全体にどんよ~りした空気が流れてるぞ。そもそも、少年事件だけ目の敵にされるのだって、家庭裁判所の地位向上を怠ったせいもあるんじゃないのか。おまえの強権的な人事に嫌気が差した志高い裁判官たちはどんどん辞めていっている。人手不足が進むな~。おまえの掲げている司法の独立っちゅうもんは、随分寂しく、お粗末だな」
桂場は「黙れ!」と叫びますが、その声は自分しかいない部屋に虚しく響いただけでした。
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この吉田恵里香さんの脚本は、本当に素晴らしいですね。正確な事実関係を踏まえているだけでなく、松山ケンイチさんが演ずる桂場の「お団子」を食べる姿が、大人気となり、注目を集めている中で、この場面をぶつけて来たのですから。
視聴者は、気難しいところはあるけれど、チャーミングなところもあった桂場長官を追い詰めたものが何だったのか、これ以外の選択肢はなかったのか、それでも、このやり方はよくないと思い、これからの彼に救いはあるのだろうかと考えるようになるはずです。そして、おそらくは「尊属殺人厳罰規定の違憲判決」の過程が描かれることになるはずです。
私が司法修習生となったのは1979年、23歳の時です。当時の司法はブルーパージのあとの焼け野原のようではありました。私も「青法協」に当然のように入りました。当時も、司法修習生500人のうち、なんと半数が青法協の会員でした。しかし、任官するためにと断って、青法協に入らない人もいました。さすがに私に任官を勧める教官はいませんでしたが、検察官にならないかと勧めてくれる先輩はいました。任地の水戸の指導教官だった池上政幸検察官には特に強く勧められました。そんなことも遠い思い出です。池上検察官は法務官僚の道を進み、最高検の次長検事から最高裁判事になられました。
このドラマによって、日本の多くの市民は、1970年以降の日本の司法をゆがめた「司法反動」が、自民党が最高裁に圧力をかけて始めたものであること、その中でも、闘いをつづけた裁判官たちもいたことを学んだはずです。
今日の寅子さん・“イマジナリー”多岐川さんと桂場さんの対決は、日本のテレビドラマの歴史に残る名場面となったと思います。