東京地裁平成9年4月9日判決
(判例時報1629号70頁、判例タイムズ959号115頁、ジュリスト経済法判例百選、NBL622号18頁などに収録)
(東京高裁で和解)
弁護士 山口 広
長年、独占禁止法の日本社会への浸透の重要性を主張し続けてきた私にとって、最も輝かしい勝訴判決です。
平成元年ころ、おもちゃ業界では、エアソフトガンが注目商品で、性能つまり威力の強さを業者間で競い合っていました。電子・遊戯銃協同組合では自主規制基準をつくって安全性を確保すると称していましたが、組合役員のメーカーをはじめ、規制基準を超える威力のおもちゃ銃を各社で製造販売していたのです。
愛知県のメーカー・デジコン社は、比較的安くしかも威力のあるおもちゃ銃を開発して販売開始しました。デジコン社は問屋の実情に不信を抱き、共同組合に加入しませんでした。協同組合は、デジコン社に対して販売中止を求めました。デジコン社はこの要請を拒否。協同組合は、全国のおもちゃ問屋などにデジコン社のおもちゃ銃を扱わないよう要請し、もし、扱ったら、協同組合加入メーカーの商品の納品を止めると通告しました。このため、デジコン社の売り上げは、販売開始時は月2千万円以上あったのに、この取引中止要請後(3ヶ月後)は半分近くに売上が落ちたのです。
デジコン社からの相談を受け、私は、明白な独禁法違反の共同ボイコットだと思いました。ところが、公正取引委員会は、経産省の意をくんだためか、排除命令を出さず、何の措置も講じなかったのです。
ポイントは、消費者の安全のために協同組合がつくった自主規制基準に違反して危険な商品だと主張しているのに、協同組合加入の各メーカーでも、この自主規制規準に違反する商品を製造・販売していたことでした。東京都の消費者生活センターでも組合加入メーカー商品の危険性を公表していたのです。
私は、損害額をどう主張立証するかでも苦労しました。全国数百の問屋に対して、どうしてデジコン社の商品を扱わないのか、協同組合の要請がなかったら扱ったか、消費者のデジコン社商品への反応はどうだったか等を、調査会社に委嘱して、ていねいに問い合わせ、その結果をデータにしました。協同組合の独禁法違反行為がある前の市場シェアが違法行為のため半減した事実を立証しました。米国では浸透していた「マーケットシェア理論」を、日本の裁判所が初めて採用して相当額の損害額を認めたのです。
協同組合など既存事業者が、新規事業者の参入を妨害するため、様々な口実で取引を妨害することが繰り返されてきました。そのことが、日本国内の様々な事業分野の競争を阻害してきたのです。デジコン社の訴訟は、正面から協同組合と組合代表者の独禁法違反による損害賠償義務を認めました。この判決が契機となって、独禁法違反の課徴金の額を欧米の水準とは言えませんが、かなり厳しくする法改正もなされました。独禁法の教科書にはこの判例は、必ず紹介されています。
私と長谷一雄弁護士(その後東京共同を独立)とで担当した事件です。