事件例・Q&A

2019年4月11日

国土交通省による国民の請願権を侵害する違法な圧力の存在を認め、528万円の損害賠償を命ずる逆転高裁判決(担当:弁護士海渡、小川)

 

1 事件の概要
 2019年4月10日、東京高裁(第11民事部 野山宏、橋本英史、吉田彩)で、私たちの事務所で担当していた国土交通省に対する国賠訴訟で、一審が時効成立を理由に請求を棄却していた事件で、逆転勝訴判決(528万円の損害賠償の支払いを命ずる)を受けることができました。
 この事件は、港湾関係の公共事業等に携わる株式会社地域開発研究所(英語名Regional Development Consultants CO.Ltd.。以下「RDC」という。)の創業者で,代表取締役であった一審原告島崎武雄さんが,国と公益法人との間の違法・不当な随意契約の廃止を求める政治活動に協力し,また、東京湾第二海堡の保存を求める請願活動に関わったところ,国土交通省の港湾局や河川局、同省の関東地方整備局に所属する職員らにより,港湾関係の公益法人に対してRDCへの発注を停止するよう求めるお触れを回され,RDCの役員に対して原告を役員から退任させるよう迫られたことで,原告がRDCの代表取締役と取締役を順次辞任させられ,RDCとの関係を断絶することを余儀なくされたとして被告に対し,国家賠償法1条1項に基づ」いて損害賠償を求めた事件です。
 加害行為の全体像は事件当初には明らかでなく、随意契約の廃止を求める活動に起因する国による加害行為は本省が、第二東京湾第二海堡の保存を求める請願活動に起因する国による加害行為は関東地方整備局が、主導したことは原告の提訴直前の調査活動によって明らかになったものです。この点は時効の成否に関する重要な事実関係となりました。

 

2 高裁判決の内容
 一審判決は、原告主張の事実関係を概ね認めましたが、事件当初に加害者を知ることができたとして、消滅時効を認めて、請求を棄却しました。
 これに対して、本日言い渡された東京高裁の判決は、2つの加害行為を詳細に認定し、国と公益法人との間の違法・不当な随意契約の廃止を求める政治活動に関する圧力の存在も認めましたが、これはもっぱらRDC社という法人に対する圧力であったとして、原告個人の請求は認めませんでした。
 しかし、第二海堡保存の運動に関する圧力は、関東地方整備事務所幹部による「島崎の辞表をもってこい」という、原告個人に対する圧力であり、原告に対する違法行為であることを認めました。

 

3 消滅時効に関する判断

 高裁判決では、消滅時効は、具体的な加害行為の行為者が、どの部局のどのような役職者であるかを知ったときから進行するとされました。
 そして、消滅時効については、提訴の直前に弁護士の指示のもと、関係者にインタビューした段階で始めて加害行為の全貌がわかったものであり、事件当初の認識にもとづいて、訴状を作成したとしても、公務員の行為について具体的な主張ができず、実効性のある訴訟活動はできなかったとし、加害者を知った時期は提訴の直前に関係者に対するインタビューを行った時期であると認め、国の消滅事故の主張を斥けました。

 

4 原告の憲法上の請願権の侵害が認められた
 公益法人問題や海堡問題をめぐる原告の活動に対して、国土交通省の職員が加えた圧力は、「何人も請願をしたためにいかなる差別待遇も受けないという日本国憲法16条の保障を無視したもので、国には国賠法上の責任があると判断しました。

 

5 本判決の意義
 この事件は、①国土交通省が自らの進める施策に抵抗するものに違法な圧力を加えている実態をあきらかにしたこと、②時効の起算点について、原告の請求を広く認める見解をとることをあきらかにしたこと、③憲法上の請願権侵害を正面から認められた点で、画期的な判決であると考えます。

 

【掲載メディア】

 ・共同通信 https://this.kiji.is/488657400747623521?c=39546741839462401

 ・東京新聞 https://www.tokyo-.co.jp/s/article/2019041001001966.html

 ・その他、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞等

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