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2020年3月18日

関連会社への出向・転籍は断れるか(弁護士小竹)

関連会社への出向・転籍は断れるか

 

小竹広子弁護士が執筆した法律コラムが月刊労働組合11月号に掲載されました。以下、同原稿をウェブ用に編集したものです。

 

【質問】

Q.私は今働いている会社に長年勤務していますが、親会社の指示で業務を縮小することになり、来年4月からは関連会社で働いてほしいと言われました。私は組合活動を活発に行っているので、会社から排除するためなのかもしれません。断ることはできないのでしょうか?

 

【回答】

本人の同意なく転籍させることはできません。在籍出向の場合でも、就業規則での内容明示などの条件を満たす必要があるし、権利濫用に当たる命令は無効です。

 

 労働契約は、決まった使用者との間で締結しているのですから、基本的には他の会社で働くようにという指示はできないはずですが、企業間の資本関係が複雑化している現在、関連会社への出向(在籍出向)や転籍を命じられることがあります。

 まずは、現在の使用者との労働契約を継続したまま他の会社の指揮命令下で働く出向(在籍出向)なのか、現在の使用者との労働契約を終了させて新たな使用者と労働契約を結ぶ転籍なのか、また会社からただ提案されているだけなのか、それとも命じられているのかを、会社にはっきりさせましょう。

 

▼転籍には個別同意が必要

 転籍の場合には、使用者が完全に変わってしまうので、今の会社を辞めて、他の会社に転職するのと同じことになりますから、基本的には、個別に労働者の同意がなければ、使用者が一方的に転籍させることはできません。使用者がある部門を他の会社に事業譲渡するような場合でも同様です。

 ただ、例外的に、入社時に子会社が勤務地のひとつとして明記されていたり、採用面接時に転籍がありうるとの説明があって労働者が異議を述べないと答えたなどの事情から、事前に包括的な合意があったと認められ、転籍命令が有効とされた事案もあります。

 

▼就業規則や協約上の根拠は?

 転籍ではなく、今の会社に籍を置いたまま、関連会社の指揮命令を受け、関連会社に出勤して働くことを出向と言います。転籍ではなく出向であるとしても、同じ企業内での配置転換とは異なり、労務を提供し指揮命令を受ける相手が変わるのですから、労働者にとって非常に大きく労働環境が変わることになります。そのため、使用者が出向命令権を持つことが労働契約の内容になっていなければ、労働者の同意なく一方的に出向を命ずることはできません。

 そして、出向命令権を持つことが労働契約の内容になっているというためには、単に就業規則上「出向を命じることがある」などと定めているだけでは足りず、出向先での基本的労働条件や出向期間、復帰の条件など、出向に関する基本的な事項がきちんと決められていることが必要とされています(新日鐵事件最高裁判例)。

 出向に関する基本的な事項を決める方法は、個別の契約や同意書の場合もありますし、就業規則、労働協約などの会社全体を規律するルールでも可能です。

 

▼法令違反、権利濫用にあたる命令は無効

 あなたは、組合活動を活発に行っている自分を会社から排除するために、あなたを関連会社に行かせたいのではないかと疑いを持たれているのですね。いかに就業規則などで出向命令権が認められる場合でも、そのような意図で出向を命じた場合で出向命令が不利益な取扱いにあたるといえれば、それは不当労働行為にあたり、法令に反したものですから、出向命令は無効となります。

 ただ、会社に不当労働行為意思があることを証明するのは難しい場合もあります。会社の代表者や管理職が今まであなたの組合活動に対して批判的な態度をとってきており、あなたを会社から排除したいことを他の従業員に話すなどしていれば、不当労働行為意思が証明できるかもしれません。

 また、社長がその労働者を個人的に嫌いだからとか、セクハラを訴えられたからといった勝手な理由で出向を命じた場合には、権利濫用として無効となります。権利濫用であるかどうかは、労働契約法14条により、出向の業務上の必要性有無・程度、対象労働者の選定の合理性、その他の事情を総合考慮して判断されます。「その他の事情」には、対象労働者が被る不利益の程度=賃金レベルの低下、通勤時間増加、労働時間増加、業務内容変更の程度などが含まれます。

 以上のとおり、「関連会社で働いてほしい」という趣旨が転籍であれば、基本的に強制することはできませんから、あなたは自由な意思によって断ることができます。また、出向命令が出せる場合に該当しなければ命令は無効ですから、従う必要はありません。一見、出向を命じられる場合や条件が就業規則等に定められていて、出向命令が有効に見える場合でも、出向命令の必要性があるのか、必要性があるとしても人選に合理性があるのか、労働条件の変更があなたにとって過酷すぎないのか、権利濫用ではないのか、という視点からチェックをしましょう。

 

▼断ったことによる不利益処分

 あなたが出向命令や転籍命令が無効だと考えて応じなかった場合でも、会社は有効だと主張して、例えば業務命令違反として解雇したり、「事業を縮小したからこの会社にはあなたの仕事がない」などとして整理解雇するなどの可能性があります。そのようなおそれがある場合には、異議を留めた上で、解雇を回避するために仮に関連会社で働きながら命令の有効性を争う方法もあります。その場合には、なるべく早めに弁護士に相談し、命令が無効であるという主張と、当面命令の効力に決着が付くまで異議を留めて関連会社で働く旨の文書を提出しておくようにしましょう。

 

 

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