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2020年2月5日

映画「プリズンサークル」を見て(弁護士海渡)

2月2日の日曜日に渋谷のイメージフォーラムでみました。素晴らしい映画でした。
 私は、島根朝日社会復帰支援センターには弁護士会の見学に訪れたことがあり、このTCの区画で30分だけ、プログラムを見学したことがあります。
 この映画では二年の歳月をかけて、このプログラムが彼らをどのように変えていくか、リアルタイムで目撃しているような感激があります。
 罪を犯した人の人生に、それまでどんなにつらいことがあったのか、どのようにして、人は他者の痛みに無感覚になっていくのかがわかります。プログラムで話された子ども時代の思い出がアニメーション化されて視覚に訴えてくるのは素晴らしい演出でした。
 「親にぎゅっと抱いてもらった体験がない」ということばには、ジーンとしてしまいました。
 子どもたちの子ども時代を親や周りの人々の愛情にあふれたものにすることが、犯罪を防止するうえで最高の対策なのだということがわかります。
 そして、罪を犯した人が人として尊重され、自ら話し、仲間の話を聞き、対話する中で、虐待されてきた子ども時代を思い出し、自分の心の中の問題点に気づいていきます。そのゆっくりした気づきと進化の過程が、島根の刑務所の四季の移り変わりとともに描かれます。夏のセミの声、秋の紅葉、雪景色、どれもとても美しく描かれています。
 この治療共同体TCの卒業生たちの楽しい交流の場も描かれます。ここで、プログラムの成果をはっきりと確認できます。出所後に福島の除染作業に行ったら経営者が暴力団だったというような衝撃のレポートも飛び出します。
 自分の犯した罪について、被害者や家族役を仲間の受刑者が演ずるロールプレイング・対話を通じて、被害者の気持ちを彼らが理解していく過程が手に取るように描かれます。幸せになりたいという自分と罪を犯した自分は幸せになんてなる資格はないという自分の中でふたつに引き裂かれた自我を交互に演じて対話するという、むつかしいプログラムも、とてもスリリングでした。こんなやり方で、自分の中の気持ちを整理していくことができるのですね。
 とても多くのことを気づかせてくれる映画でした。
 なによりも、このプログラムに取り組む職員や指導者の方々のやさしさが素晴らしいです。彼らの言葉に深みがあるから、この映画にはまがい物でない魂と魂の触れ合いが描かれたのだと思います。
 そして、プログラムを終えた彼らの(モザイク越しではありますが)自信に満ちた笑顔が、とてもすがすがしく、未来に希望が持てました。
 このプログラムを終えた者の再入所率は平均の二分の一です。成果は明らかです。
 2005/6年に監獄法が改正され、新法が制定され、PFIが導入され、刑務所の改革がここまで進んだのです。私は、日弁連と監獄人権センターの活動を通じて監獄法の改正に取り組みました。このプログラムは、この法改正が生み出した最高の成果の一つだといえるでしょう。
 映画の最後に、日本全国の受刑者4万人のうち、このプログラムが受けられるのは40人と報告されます。もちろん、日本中の刑務所で様々な回復プログラムが始まっています。TC的な要素を取り入れたものもあります。でも、生活まで共同にしながら、これだけの時間をかけてプログラムを実施しているのは島根朝日だけです。この映画を見た方は、この島根朝日のような徹底した自助グループによるTCプログラムを大規模に全国展開してほしいと感じたはずです。この映画がきっかけとなり、進んだ回復プログラムが全国に広がることを心から願います。

【予告編はこちら】

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