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2020年1月15日

居場所がわからない共同相続人&遺言(弁護士古田)

古田典子弁護士が執筆した法律コラムが東京ユニオンの機関誌GU10月号に掲載されました。以下、ウェブ用に編集したものです。

Q 

 姉が80歳で亡くなりました。生涯独身で子どももいません。

 姉、私、妹、弟の4人きょうだいでしたが、妹も弟も先に亡くなっており、妹には子どもが3人、弟には子どもが2人なので、私を含めて6人で相続するものと思って手続きを進めようと戸籍の書類を取り寄せたところ、弟が50歳の時に外国人女性と2度目の結婚をして子どもを1人もうけた後、離婚していることがわかりました。弟は、外国に長く暮らし、私たちとは付き合いがないまま亡くなってしまったので、外国人女性との間に子どもが生まれたことなど全く知らず、その子どもの居場所も連絡先も全くわかりません。

 姉は1000万円ほどの銀行預金を残しましたが、銀行から、居場所のわからないその弟の子どもも相続人の1人なので、その子の実印と印鑑証明等がないと預金の相続手続きができないと言われて困っています。どうしたらいいでしょうか。

 

A 

【法定相続】

 人が亡くなると、相続が発生し、遺言がなければ、民法で定められた法定相続人が財産を引き継ぎます。子ども・親がいない場合は、兄弟姉妹が法定相続人になり、兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子ども(おい・めい)が兄弟姉妹の代わりに相続人となります。あなたのお姉さんの法定相続人は、あなたとおい・めいたちになりますので、外国人女性との間に生まれたお子さんも含めた7人がお姉さんの遺産を共有している関係になります。銀行としては、その共有財産を払い戻しするために、相続人7人全員の相続関係を証明する戸籍謄本類、印鑑登録証明書と実印を押捺した相続手続き書類をそろえてほしいと求めてくるでしょう。

【不在者の財産管理】

 相続が開始した場合、戸籍を取り寄せて相続人が誰であるのかを確定します。その過程で、戸籍の附票を取り寄せることができます。戸籍の附票にはその人の住所の移り変わりが記録されていますので、多くの場合、附票により相続人の居場所がわかります。

 ただ、相談のように、相続人に戸籍がない場合には、居場所がわからないこともあります。このように居場所も連絡先も全くわからない共同相続人がいたら、どうしたらいいのでしょうか。

 民法では、住所から去って帰る見込みがない人を「不在者」と言い、利害関係人の申立てによって、家庭裁判所が不在者の財産管理人を選び、不在者に代わって財産を管理させ、管理行為を超えた財産処分などは家庭裁判所の許可を得て行うこととしています。

 あなたは、不在者と遺産を共有する利害関係人なので、遺産遺産分割協議を目的として家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立てを行い、不在者財産管理人が、家庭裁判所の許可を得て、遺産分割協議をすることができます。不在者の法定相続分を基準とした一定の額を不在者の財産として取得させ、その管理人が不在者のために財産管理をしていくことになります。

【失踪宣告】

 人の生死不明の状態が7年間以上続く場合には、利害関係人が家庭裁判所に失踪宣告の申立てをすることができます。失踪宣告の申立てをして裁判所の公告の期間を経過しても生存の届出がなかった場合、失踪(最後の音信や生存が確認された記録のある時点)から7年で死亡したとみなされます。失踪宣告の結果、あなたのお姉さんよりも早く死亡した扱いになった場合は、不在者財産管理人が管理する財産も、ほかの相続人の間で分けることが可能になるでしょう。

【遺言作成のお勧め】

 このケースのように、法定相続だと、亡くなった人に会ったこともない人が、血縁があるというだけで遺産を相続する可能性が発生します。自分の財産は、自分が亡くなったら、親しい親族に受け継いでもらうか、あるいは有意義な活動に有効に使ってほしいと考える人は多いのではないでしょうか。例えば動物愛護NPOなどに寄付するのもいいですよね?そのような場合は、有効な遺言を是非とも作成しておいてください。

 兄弟姉妹には「遺留分」(最低限の取り分)がないので、遺言があれば全額寄付したとしても、きょうだいやおい・めいは、一切文句を言えません。

 遺言はきちんとした形で残しておくことをお勧めします。公正証書遺言を作成するのが確実性が高く最善です。でも、費用はかけたくない、公正証書遺言を作るのは、まだ若すぎると思われる方は自筆証書遺言を書いてください。毎年決まって元旦に自筆の遺言書を書いている人もおられます。

 2019年1月13日から、自筆の遺言の目録部分は自署でなくパソコンで作ってもいい(ただし、署名・押印を各紙にしてください)というルールができました。また2020年7月10日から、遺言書を法務局が保管するという新制度も始まりますので、ぜひご検討ください。

 

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