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2019年10月8日

定年後再雇用労働者の年休の考え方(弁護士小川)

定年後再雇用労働者の年休の考え方(弁護士小川)

小川隆太郎弁護士が執筆した法律コラム「定年後再雇用労働の年休はどうなるか」が月間労働組合6月号に掲載されました。以下、同原稿をウェブ用に編集したものです。

【質問】

定年後に再雇用された場合、継続勤務年数は定年時に一旦精算されるのでしょうか。定年後再雇用から6ヶ月経過しないと年休は取得できないのですか。

【回答】

▼年休権とは

年休権は、①6ヶ月継続勤務と②全労働日の8割以上出勤という2つの条件を満たした場合に、満たした日に向こう1年に法定の日数の年休を取得する権利として当然に発生します(労働基準法39条1項)。 この権利を具体化するのが労働者の時季指定権の行使であり、年休の取得について、使用者の承認は必要ありません。使用者は「事業の正常な運営を妨げる場合」に時季変更権が認められているに過ぎません(白石営林署事件・最判昭和48年3月2日労判171号等)。 勤続年数による年休付与日数 勤続年数 想定付与日 6ヵ月 10日 1年6ヵ月 11日 2年6ヵ月 12日 3年6ヵ月 14日 4年6ヵ月 16日 5年6ヵ月 18日 6年6ヵ月 20日 年休の日数については法律で定められています。まず、採用後満6カ月に達した日の翌日から、向こう1年について10日の年休権が発生します(労基法39条1項)。その翌年以降は1年ごとに図のとおりの年休権が発生し、最大の法定付与日数は20日間です(同条2項)。 原則として年休の取得単位は1日です。ただし、労働者が半日の年休を請求した場合、使用者は労基法上その請求に応じる義務はありませんが、任意にこれに応じることは差し支えありません。もっとも、労使協定が存在する場合(労基法39条4項)や、半日休暇を認める就業規則上の規定や契約内容となった慣行がある場合は、使用者は請求に応じる義務があります(高宮学園事件・東京地判平成7年6月19日労判678号)。時間単位の取得も、就業規則上の規定や労使慣行があれば認められます。

▼再雇用も勤務年数を通算

ご質問の内容は、年休権の要件である「6カ月継続勤務」をどのように判断するのかという問題にかかわります。 継続勤務とは、労働契約の存続期間すなわち在籍期間をいいます。労働契約関係が継続していれば足りると解され、在籍していればよく、休業中や休職中であっても継続勤務となります(昭和63年3月14日基発150号。ただし、8割出勤要件を満たすことは必要です)。 継続勤務か否かは、勤務の実態に即して実質的に判断されます(日本中央競馬会事件・東京高判平成11年9月30日労判780号)。たとえば期間の定めのある労働契約が更新された場合でも、継続勤務があったと認められた裁判例があります(国際協力事業団事件・東京地判平成9年12月1日労判729号)。これは、語学講師として雇用期間1年の契約で5年から10年にわたり雇用されてきた外国人労働者が、年休権を行使し休んだところ、その一部が欠勤とされて賃金を控除された事件です。判決は、1年の雇用契約であっても毎年更新がなされ、途中中断することなく雇用されている場合は労基法39条の年休日数の算定は継続勤務したものとして取扱い、勤続年数は通算すべきであるとしました。 では、ご質問のような定年後の再雇用の場合はどうでしょうか。この点については、定年退職後も引き続き嘱託などとして再採用している場合―定年再雇用のほとんどはこのようなものです(所定の退職手当を支給した場合を含む)も、実質的に労働関係が継続している限り、勤務年数を通算するとされています(昭和63年3月14日基発第150号)。ただし、退職と再採用との間に相当の空白期間が存在し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りではありません。

▼年休取得を理由の差別は禁止

日本では年休の取得率が低く、正社員全体で51・1%(平成29年)程度しかありません。そのため、働き方改革の一環として、使用者は、本年4月1日より毎年5日以上の年休を取得させることが義務づけられました(違反した場合、会社は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われ、1罪ごとに30万円以下の罰金が科されうることになっています)。 そもそも年休は、たんに労働からの解放や労働者の疲労回復だけを目的とするものではなく、労働者の人間らしい生活の確保に必要な物的基礎を有給によって保障し、人間としての尊厳を積極的に維持確保することを目的としたものです。 年休取得を理由とする賃金の減額、精皆勤手当や賞与の減額ないし不支給、これらの手当の計算の際や昇給などについて年休日を欠勤と扱うことのほか、年休の取得を抑制するような不利益な取扱いはすべて禁じられています(労基法136条、大瀬工業事件・横浜地判昭和51年3月4日労判246号)。これらの不利益取扱いは違法・無効です(日本シェーリング事件・最判平成元年12月12日労判533号)。年休を取得することについて使用者に理由をいう必要はありません。どのような理由で年休を取得するかは労働者の自由です。 そうはいっても年休を取得することについて、多くの職場では同僚への遠慮や後ろめたさを感じてしまう雰囲気があります。積極的に年休を有効活用して、労働者が、自分や家族のための時間、さらにはボランティアなどさまざまな社会活動をする時間を確保することの大切さについて、たがいに認め合う職場文化を作っていくことも、労働組合の役割のひとつであると思います。

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