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2019年11月26日

他の相続人が被相続人の配偶者(妻)の相続分を増やす方法 (弁護士只野)

只野靖弁護士が執筆した法律コラムが東京ユニオンの機関誌GU7月号に掲載されました。以下、ウェブ用に編集したものです。

【相談内容】

 夫が急死してしまいました。財産は夫名義の不動産と預金だけです。借金は住宅ローンと、奨学金の返済があります。住宅ローンは生命保険金で支払えそうです。遺言は無く、子供はいません。夫の父母はすでに他界しており、夫には弟と妹がいます。妹は、私に同情的で、相続放棄をしようかと言ってくれています。弟は、私たち夫婦とも妹とも仲良くなかったため、その態度はまだ分かりません。

【回答】

 妹さんには、相続放棄ではなく、相続分の譲渡をお願いしましょう。弟さんとはよく話し合い、解決できない場合には、遺産分割調停を申し立てましょう。

【解説】

1 本件の相続人および相続割合

 配偶者(夫)を突然亡くされて、大変な思いをされていると思いますが、相続手続は、これからの生活のため、避けてとおれませんので、しっかり押さえてください。

 本件では、夫との間には子供がいないということなので、法定相続人は妻(配偶者)であるあなたと、夫の弟さんと妹さんの3名で、相続分は妻が8分の6(4分の3)、弟さん妹さんが各8分の1(弟妹合わせて4分の1の相続分を半分ずつ取得します)となります。したがって、不動産の権利としても、預金の払い戻しも、弟さん妹さんに各8分の1の権利があることになり、財産の処分には、両名の同意が必要となってしまうのです。なお、亡くなった方、本件では夫のことを被相続人といいます。

2 妹さんが被相続人の妻の相続分を増やす方法

 妹さんは、妻の相続分を増やすために相続放棄をしようかと言ってくれているということですが、相続放棄は、3か月以内に家庭裁判所に対して申立てをする手続きのことで、この結果、妹さんは初めから相続人ではなかったものとして扱われます。その結果、相続分は妻が8分の6(4分の3)、弟さんが8分の2(4分の1)ということになり、妻の相続分が増えるわけではありません。この結果は、妹さんの意図とは全く違うことになります。

 これとは別に、妹さんが相続分を放棄するという方法もあります。この場合、家庭裁判所への申立ては不要ですが、妹さんの相続分は、妻だけでは無く弟さんにも当初の法定相続分の割合(本件では、妻6、弟さん1の割合)で帰属することになります。これも妹さんの意図とは違うことになります。

 本件では、妹さんの相続分を妻に譲渡するという方法が最も適切です。この結果、相続分は妻が8分の7、弟さんが8分の1となります。借金については、妹さんには、債権者との関係では支払い義務は残りますが、相続分の譲渡を受けた妻が代わりに支払うことで解決します。

3 弟さんへの対応、および知っておくべき重要な法改正の概要

一方、弟さんとも、話し合いをする必要がありますが、話がまとまらない場合には、家庭裁判所に、遺産分割調停を申し立てるしかありません。このようなケースでは、弟さんの態度によっては、残された妻が、住み慣れた不動産を売却せざるを得なくなるようなことも多々ありました。

 そこで、相続法が40年ぶりに改正され、残された妻(配偶者)の生活に配慮するという観点から,配偶者が相続開始時に夫(被相続人)が所有する建物に無償で居住していた場合に、その居住していた建物に、引き続き住み続けることができる権利を創設しました。ただし、この改正は2020年4月1日から施行されます。

 そのほかにも、以下のとおり、さまざまな重要な改正がされています。

 まず、婚姻期間が20年以上の夫婦間において居住用不動産の贈与等がされた場合、遺産分割の基礎となる財産から除外され、配偶者が遺産分割においてより多くの財産を取得することができる優遇措置が設けられました。

 さらに、遺言の利用を促進し,相続をめぐる紛争を防止するという観点から,自筆証書遺言の方式を緩和し、ワープロで作成した財産目録を添付したり、通帳のコピーなどを添付することが許されるようになりました(ただし遺言書の本文は自筆でなければなりません)。また、遺言書の紛失や隠匿を防止するため、法務局に遺言書を保管する制度が設けられました。

 その他、①預貯金について、遺産分割前でも、総額の3分の1までは、各相続分の割合に応じて、単独で払い戻しができる制度が創設されました。また、②遺留分制度が見直され、これまでは、遺留分減殺請求権の行使により、不動産などが当然に共有とされてしまい、遺産分割交渉を困難にしていたところ、遺留分減殺請求権から生ずる権利を金銭債権化し、その請求を受けた者が金銭を支払うことにより、共有を生じさせないこととしました。さらに、③相続人以外の親族、例えば、妻が、夫の両親の介護をしたような場合でも、これまでは、妻は相続人でないため、何の請求もできなかったのですが、被相続人の財産の維持増加について特別の寄与をしたとして、相続人に対して金銭の支払いを請求できることとしました。

 各改正は、段階的に施行されています。お気軽にご相談ください。

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